長野県にゆかりのある4人の偉人について学ぶ 源義仲、仁科盛信、太宰春台、そして佐久間象山。4人はすべて信濃の人ではないが、ゆかりがあり、文武両道に秀でる。山のように偉大であり、名声は永久的で尽きてしまうことはない。と歌う。4人はどんな人物だったか、掘り下げてみていこう。 木曽義仲 県歌「信濃の国」で「旭将軍」とうたわれる平安時代の武将・木曽義仲公。武家の棟梁である源氏の一族に生まれた義仲公は、幼い頃に同族間の争いで父を亡くし、都を追われて信濃国木曽谷へ逃れた。源氏とは対立関係にあった平氏の権勢が強まるなか、治承4（1180）年、以仁王が発した平氏打倒の令旨に応じて挙兵。倶利伽羅峠の戦いでは、数百頭の牛の角に松明をくくりつけて敵中に放つ「火牛の計」により平氏の大軍を破ったという。その勢いにのって京の都から平氏を追い払い、ついに上洛を果たした。しかし、後白河法皇の策略により、同じ源氏で従兄弟にあたる源頼朝が送った軍勢によって討たれた。こうした悲劇的な側面もあって、信州では多くの人に慕われ、伝説が各地に残っている。 　義仲公が育ったという木曽町には、東洋一広い枯山水の庭を持つ興禅寺があるが、ここには義仲公お手植えと伝えられる桜がある。現在は二代目といわれるが、満開に咲き誇る姿は空から桜が降ってくるようで「興禅寺の時雨桜」とよばれる。また、一族の菩提寺であり、義仲公やその妻であり一騎当千の女武者・巴御前の墓がある徳音寺の桜も見事だ。 木曽地域以外にも義仲公の伝説は残る。それは、兵を集めるため信濃国中を回ったからだ。とくに東信は、有力豪族である海野氏を引き入れたことからゆかりが深く、戦勝祈願をしたという岩谷堂観音には、義仲公が自ら植えたという樹齢800年の「義仲桜」がある。地域有志「木曽義仲信州丸子会」が大切に守っている。こうした人々の活動からも、義仲公が信州でどれほど愛されているかがわかる。 佐久間象山 幕末の信州が生んだ日本屈指の先覚者・佐久間象山。開国論を推進し、吉田松陰や坂本龍馬など、歴史に名を残す優秀な門弟を輩出した。象山の死後、地元住民や県下各地の自治体、信濃教育会、県内の小中学生が象山を偲び、全国各地の象山と縁の深い建物を移築して象山神社を創設。動乱の時代に書斎として利用した「高義亭」のほか、京都で亡くなる直前まで使用していた煙雨亭の茶室などが残る。参道の両側には桜が植えられ、花に囲まれるようにして、象山自筆の碑がふたつ立つ。日本の名物である富士山と桜を讃えた「望岳賦」と「櫻賦」。「櫻賦」は、安政７（1860）年の桜田門外の変の翌月、蟄居の命により謹慎生活を送っていた象山が、自らの志が受け入れられないことを嘆いて作った賦で、美しいが観に訪れる人のない深山の桜に、自分の境遇を重ね、尊王の気持ちを歌っている。 仁科盛信 仁科家とは、平安末期から戦国時代まで、長野県北西部にある今の大町市辺りを拠点にしていた武士一族で、町づくりや水田の開発に力を注いだ。武田信玄により滅ぼされるとその仁科家を継いだのが信玄の五男・盛信。で、盛信が県歌に登場するほどの武将になった理由は…。1582（天正10）年、織田信忠が武田討伐のため、大軍を率いて伊那谷に攻めてきた。武田側についた各軍が、次々に逃亡や投降していくなか、まだ20代だった仁科盛信だけが抵抗、高遠城で迎え撃った。激闘の末に敗れ、切腹する壮絶な最期を遂げた。衰退する武田家にあり、最後の雄としてただひとり勇敢に戦い抜いた姿が、後世の人々に感銘を与えたのだろ、ビデオゲームのキャラにもなった。ちなみに、歌詞では「信盛（のぶもり）」と歌われているが、盛信が一般的のよう。…どっち？これは、元の歌詞を尊重するという県の立場から信盛の名がそのまま使われたそうだ。 太宰春台 江戸時代の儒学者・経世家で、「だざいしゅんだい」と読む。飯田藩士の家に生まれ、江戸に出てからは朱子学、荻生徂徠に会ってからは儒学を学んだ。春台の関心は幅広く、日本語や中国語、医学、茶道、音楽（笛はプロ級だった）などについて深く研究した。経世家として「経世済民（世の中を良く治めて人々を苦しみから救う）」を追求し、晩年の代表作「経済録」では「資源に乏しい島国の我が国は、技術力を高めていく必要がある」と力説。日本に「経済」を広めた第一人者といえ、今の時代にこそ評価されるべきなのではないか。性格は、信州人らしい「理屈っぽい」人だったようだが、それが、徂徠の弟子ではあるものの、儒学の枠を超えて経済学の視点からさまざまな独自理論を世に発信することを可能にしたといえる。近年の大学入試の「日本史」などで出題頻度の高い信州人だということは意外と知られていない。