長野県の春を彩る花々 今か今かと、だれもが待ち焦がれた長野県の春は、まさに百花繚乱。心地良い春風に誘われて目覚めた花々が一斉に花開き、麗しい風景となる。花を愛でに旅へ、もしくは旅のついでに花も愛でに、豊かな自然に息づいた色とりどりの花を楽しんでみてはいかがだろうか。 杏（あんず） 原産地の中国では医者のことを「杏林」とよぶ。人々の病気を治していた仙人が、治療代の代わりに杏の木を植えさせ、それが十万株を超える杏林になったことが由来という。長野県の千曲や松代東条があんずの里となったのは、松代藩に嫁いだ伊予宇和島藩の姫が故郷から苗木を取り寄せたのが始まりという。桜よりも先に開花する。 【花言葉】処女のはにかみ、乙女のはじらい、早すぎた恋、〝誘惑〟、独立、疑い 杏の名所_松代東条のあんず（長野市） 伊予宇和島藩の豊姫が松代藩に輿入れの際にもたらしたといわれる松代東条のあんず。尼巌山、奇妙山の南山麓一面、なだらかな扇状に広がる土地に、薄い紅色の花をつけるあんずの木が広がる。 花桃（はなもも） 神話では、伊邪那岐命（いざなぎのみこと）が黄泉の国から逃げ帰るとき、追ってくる黄泉の国の大軍へ、桃の実をもぎとって投げつけたところ退散したという。鬼を退治した桃太郎など、桃には魔除けの力があるとされている。花桃は花を観賞するために改良された桃で、結実するが実は小さく、食用には適さない。 【花言葉】気立ての良さ、私はあなたに夢中、〝愛の幸福〟、恋の奴隷、私はあなたのとりこです、天下無敵、魅力と同じくだれにも劣らない、辛抱 花桃の名所_花桃街道（阿智村） 伊那谷と木曽谷を結ぶR256号線は「はなもも街道」と呼ばれシーズン中には桃源郷のような類い稀なる風景で観光客を魅了する。お祭りは「花桃の里」で4月下旬から開催され、花桃饅頭などの出店もある。 水仙（すいせん） ギリシア神話では、池に映る自分の姿に恋し、ナルシストの語源ともなった美少年ナルシスが、神によって姿を変えられた花。日本では、ふたりが自分を愛したことによって仲違いした兄弟のため、断崖から海へ身を投げた美しい娘が、水仙の花となって浜辺に流れ着いたという。その舞台とされる越前海岸では水仙の群落が見られる。 【花言葉】〝神秘〟、うぬぼれ、私の美貌、我欲、利己主義、自己愛、自尊心、片思い、偽りの愛、愛をもう一度 水仙の名所_駒ヶ根高原（駒ヶ根市） 光前寺へと向かう約500mの道沿いに一目3万本といわれる水仙の花畑が広がる。高原を吹き抜ける風に花々がさざめき、雪化粧した中央アルプス千畳敷を背景にした遠景も美しい人気の撮影スポット。 芝桜（しばざくら） 淡桃、赤、薄紫、白色の、小さな桜に似た花を咲かせる。よく枝分かれし地面を覆い尽くすように密生するため、花色の絨毯を敷いたような幻想的な景色が楽しめる。葉は１cm程度と小さく、硬く披針形をしている。また寒暑や乾燥に強く、茎や葉は常緑で花の後も１年を通じて鮮やかな緑を楽しめるため、芝生代わりに植えられていることもある。 【花言葉】合意、一致、臆病、忍耐、燃える恋、〝華やかな姿〟 芝桜の名所_安曇野ちひろ公園（松川村） 安曇野ちひろ美術館の周囲にある公園には広々とした芝生、雄大な景色に色とりどりの花が咲き誇る大花壇が。春には色鮮やかな芝桜がガーデンを彩り、訪れる人の目を楽しませる。 躑躅（つつじ） ツツジ属の植物の総称で、日本では古くから交配され数多くの園芸品種が生まれた。クルメツツジやヒラドツツジはその代表で、種類も多く色とりどりの花が咲く。街路樹としてもたくさん植栽されている。「皐月」もサツキツツジとよばれる「躑躅」の一種で、生け垣や道路の植え込みなど、日本国内では最も多く用いられる庭木といわれる。 【花言葉】自制心、〝節制〟、恋の喜び、初恋、燃える思い 躑躅の名所_鶴峯公園（岡谷市） 約２万㎡の小高い丘に30種類以上３万株のツツジが植えられたツツジの名所。赤、白、ピンク、紫と咲き誇り、さまざまな色に染め上げられた公園内は華やいだ雰囲気に包まれる。 菜の花（なのはな） アブラナ科アブラナ属の花の俗称で、食用油の原料となる在来種アブラナやセイヨウアブラナ、観賞用のハナナなどがある。信州の菜の花畑は野沢菜。野沢温泉村の健命寺の住職が京都に遊学した際、大阪市天王寺で栽培されている天王寺蕪の種子を持ち帰って植えたところ突然変異し、野沢菜になったとの言い伝えが残る。 【花言葉】快活、〝活発〟、元気いっぱい 菜の花の名所_菜の花公園（飯山市） 残雪の山々と千曲川をバックに黄金色の菜の花畑が広がる「菜の花公園」。ゆっくりと蛇行する千曲川と花の風景は、まるで唱歌のようで感動的。毎年5月3〜5日には、「菜の花まつり」が開催される。 水芭蕉（みずばしょう） 雪解け水が湿原に流れ込む季節になると、大きな純白の花を咲かせる。花の本体は中心の緑色の部分で、花のように見える白い部分は、葉が変形した庖。「夏が来れば思い出す、遥かな尾瀬」の歌い出しで知られる唱歌『夏の思い出』にも登場するが、尾瀬で水芭蕉が咲くのは5月末頃。夏に見るのなら、信州の高原がおすすめだ。 【花言葉】〝美しい思い出〟、変わらぬ美しさ 水芭蕉の名所_奥裾花自然園（長野市） 密生度では日本一とも言われる大群落。樹齢300～400年のブナの原生林に囲まれた自然園に約81万本の水芭蕉が咲く。園内一面に咲き誇り、白い清楚な姿を見せてくれる。 藤（ふじ） 花が放つ甘い香りとたおやかに垂れるその姿から、女性の象徴であった藤。男性の象徴である松にかかる光景は、男女の和合を表すとされる。神話では、美しい女性の神を妻にするため、母親に相談した男の神が、藤の蔓で作った着物や弓矢を持って求婚に行ったところ、到着と同時に花が開き、見事射止めることができたという。 【花言葉】陶酔、恋に酔う、至福のとき、あなたを歓迎します、佳客、歓迎、長寿 藤の名所_国分寺史跡公園（上田市） 聖武天皇の勅願で全国に建立された国分寺のひとつ。カバンに入れて苗を運んだことから「カバンの藤」という愛称で親しまれている。5月中旬には周辺が甘い香りに包み込まれる。 林檎（りんご） 数々の神話に登場する林檎。聖書ではイブが食べたことでエデンの園を追放されることに、ギリシア神話ではトロイ戦争のきっかけとなった。 【花言葉】選ばれた恋、もっとも美しい人に、もっともやさしい女性に、誘惑、後悔、選択、〝品定め〟 林檎の名所_飯田りんご並木（飯田市） 飯田市内の中央にある大通りに400mにわたって植えられたるりんご並木。現在は街のシンボルとして親しまれており、春には甘い芳香の白い花が道ゆく人々の心を和ませてくれる。 牡丹（ぼたん） 周囲から浮き立つほどの威厳と気品を備えた花。原産地・中国の伝説では、牡丹の精が理不尽な皇后の要求を突っぱねるなど、その気高さを示している。 【花言葉】〝高貴〟、富貴、壮麗、恥じらい、誠実、姉妹愛 牡丹の名所_清水寺（長野市） 「保科のお観音さん」や「ぼたんのお寺」として親しまれる。40種類、約700株の牡丹が参道脇や境内にピンクや白、濃い赤紫などの大輪の花が咲き、甘い香りを漂わせる。 ジャーマンアイリス アイリスはギリシア語の虹に由来。神話ではゼウスの妻・ヘラの侍女で、神々の使者の役割を担い、虹の架け橋を使って天上と地上を往復していた。 【花言葉】愛、消息、あたなを愛す、優しい心、あなたを大切にします、私は賭けてみる、伝言、優雅、恋のメッセージ、恋のメロディ、〝使者〟、よろしくお伝えを、吉報、変わりやすい、やわらかな知性、雄弁、軽快 ジャーマンアイリスの名所_ジャーマンアイリス観光花園（千曲市） 「あんずの里・倉科」の入口で、休耕田を利用した約60アールの畑に400種類のアイリスが咲く。色は品種によって紫や黄色、白と金色と紫が合わさるなどさまざま。のどかな里の初夏を彩る。 山葵（わさび） 寿司や刺身が普及したことにより、英語やフランス語、中国語でも「wasabi」とよぶ。日本一の生産量を誇る安曇野市では、市の花に指定されている。 【花言葉】〝目覚め〟、うれし涙 山葵の名所_大王わさび農場（安曇野市） 水郷地帯に湧出する豊富な地下水を利用し栽培されているわさび。春先にはわさび田に咲く白い花が見られる。白く可憐に咲く花は残雪のアルプスとともに早春の安曇野の風物詩なっている。 かりん・マルメロ 花・果実とも楽しめ、新緑や紅葉も美しい。「金は貸すが借りない」の縁起を担ぎで、庭の表にかりんを、裏に樫を植えると商売繁盛するという。 【花言葉】かりん：努力、唯一の恋　　マルメロ：〝魅惑〟、魅力、誘惑 かりん・マルメロの名所_諏訪湖畔のかりんの花（諏訪市） 市木となっている「かりん」。諏訪の地ではマルメロは「かりん」と呼称されており、湖畔道路の街路樹として植えられ「かりん並木」として親しまれる。淡いピンク色の花が湖畔道路を彩る。 九輪草（くりんそう） 花が花茎を中心に円状につき数段に重なる姿が、仏閣の屋根にある「九輪」に似ていることが名前の由来。大きく美しいため山野草として人気。 【花言葉】物思い、〝幸福を重ねる〟、物覚えのよさ 九輪草の名所_九十九谷森林公園（喬木村） クリンソウは、喬木村の村花。公園内に約５万株が自生する。赤や白、ピンクに混じって黄色い花弁もほころび、色とりどりの競艶を見せてくれる。木道が整備され花畑を見ながら散策も楽しめる。 花菖蒲（はなしょうぶ） 葉の香りが強く、また細くとがった長い葉の形が剣にも似ているため、古くから魔除けの効果があるとされ、病魔を退けられると信じられていた。 【花言葉】〝やさしい心〟、忍耐、あなたを信じます、あきらめ 花菖蒲の名所_白髭の杜の花菖蒲（長野市） 白髭神社の鳥居前に住民が丹精込めて植えた花菖蒲約１万本が白、紫、薄紫と優雅に花開く。近くに流れる宮沢川にはホタルが乱舞する姿も。毎年「ハナショウブとホタルの鑑賞会」が開かれる。 薔薇（ばら） 美の象徴である薔薇は、数多くの神話に彩られている。花言葉も、色や状態によってさまざま。不可能とされていた青色の花言葉は「夢かなう」。 【花言葉】愛らしい、私は愛します、恋、あなたを尊敬します、愛、美、温かい心、新鮮、満足、愛嬌、無邪気、〝嫉妬〟、内気な恥じらい、照り映える容色、移り気な美、誇り、自慢、恩恵、変化（ほか多数） 薔薇の名所_一本木公園（中野市） 市街地にある3.4haの公園で、大輪のバラやツルバラなど、約850種2,500株のバラが絢爛に咲き誇り、かぐわしいほどのバラの香りにミタされる。見頃に合わせてバラまつりが開催される。 紫陽花（あじさい） よく見られる手まり咲きは、ヨーロッパで品種改良された日本原産の紫陽花を逆輸入したもの。日本古来の花は周辺部を縁取る額咲き。 【花言葉】移り気、冷淡、〝辛抱強さ〟 紫陽花の名所_高源院（飯山市） 「北信濃のあじさい寺」として知られ、本道へ向かう表参道沿いに800株、１万本が植えられている。うっそうとした杉並木、苔むした石段、荘厳な山門に青、白、紫の紫陽花が映える。